菓葉暦

大暑

たいしょ
7/23〜8/6頃
大暑

和菓子をどうぞ

菓銘 『水牡丹 -みずぼたん- 』
葛製|梅肉入り白こし餡

熱をはらんだ大気と太陽に照りつけられた潤い温む大地にはさまれて蒸し暑さ極まる頃。二十四節気では夏の終わりにあたり、暑い季節はクライマックスへと駆け上がります。

数日前から夏の土用に入り、次に迎える立秋の前日までつづきます。土用は季節の変わり目。大暑のあいだにうなぎのぼりする気温は立秋を前に高止まりします。ピークを迎える、すなわち次第にフェードアウトして次の季節の始まりが見えてくるということ。ここからしばらく続く連日の酷暑、それこそが夏の終わりを告げているとも言えます。

選んだお菓子は「水牡丹」。立夏の俳句に詠まれたように牡丹自体は初夏を告げる花ですが、仲夏〜盛夏の頃にも涼やかな葛饅頭として登場します。夏の花、百花の王として水中に包まれてひらく大輪はまさにいのちあふれる太陽の季節を象徴しているようです。

夏のお菓子に欠かせない葛は生薬の葛根と同じ部分からつくられます。葛根には体表の熱を冷ます、上半身に潤いを届けて痙攣やこわばりを解く、口渇を和らげる、下痢止めなどの効能を持つとされています。食材の葛は生薬と同じとは言えませんが、冬瓜のくず煮は暑気払いに、おなかにくる夏風邪には生姜の葛湯が重宝しますよ。

大暑イラスト 大暑イラスト

季節のからだ

夏野菜で「心」の負担をやわらげる熱冷まし

良い汗をかけるようになるとバテにくくなるものの、暑さ極まる頃は汗をかいてもかいても排熱が追いつきません。折しも土用、暑さに適応しようとがんばってきた「心しん」、循環器系や汗などのはたらきにお疲れがみえはじめる頃です。汗のかきすぎはからだに負担がかかって消耗しやすいため、8月に入ると一気に体調を崩す方も出てきます。

そこで意識したいのが夏野菜を使ったお小水での熱冷ましです。みずみずしさがごちそうのトマトやウリ類、きゅうり、ズッキーニ、冬瓜、すいかやメロンなどは「水分補給」と「利尿」の作用をもっています。食べて補った水分でからだにこもる熱を受けとめ、汗やお小水としてすみやかに排泄することで体温の上がりすぎるのを防ぎます。

いずれも寒涼性といってその作用からもわかるように熱を冷ます性質をもっています。夏野菜の多くは加熱することでうまみや味わいが増しますが、熱を加えてもその性質は変わりません。冷やしすぎない工夫として生姜やネギ、みょうがや大葉、にんにくを少量取り入れたりするのもおすすめです。夏でも冷えを感じる、冷たいものでおなかをくだす方は控えめに。

また、十分に排出しきれない熱によるトラブルも増えてくる頃です。過剰な熱で起こりやすい炎症にはその苦味が「心」の熱に効くゴーヤや緑豆もやし、小豆や大豆の「解毒」の力を。暑さで生じるイライラにはナスやレタス、緑茶の「鎮静」の効果を取り入れて。いずれも利尿作用で熱と老廃物を流します。

夏の土用は「心」の疲れを受け止めるおなかを大事にする時期でもあります。胃腸にやさしく滋養のあるものを、なるべく温かくして召し上がってください。冷たいものを好む方ほど暑さに弱いので、冷たいものはせめて先に温かいものを食べてからにするといくらか負担が和らぎます。

今が盛りの味覚を楽しみながら夏バテ予防。次の季節、立秋に入るとお食事での熱冷ましの方法も変わってきます。それについてはまた秋編で。

  • 夏野菜の水分補給と利尿作用で熱冷まし
  • 炎症やイライラには苦味を混ぜてすっきり
  • 暑い盛りでも冷たいものは控えめに

注意)マクロビオティックなどでも「寒熱」「五行」など中医薬膳と同じ言葉を用いていますが、その理解や中身は大きく異なります。寒熱が真逆のものもあり、両者を混ぜて扱うことはおすすめしていません。

五感をひろげる一句

まなぶたの疲れを癒やす夏の宵

蝉の鳴く声が降りそそぎ、眩しく射るほどの光に一日焼かれた眸は、ようやく暮れ始め薄い群青色が大気に忍び込む頃、ようやくひとごこちつき、その日の疲れを青さにそっと解き放つ。(季語:夏の宵)

作:志田円/「自鳴鐘」同人