菓葉暦

清明

せいめい
4/5〜19頃
清明

和菓子をどうぞ

菓銘 『しほひがり』
薯蕷饅頭|小豆こし餡

清浄明潔。明るく清々しく、万物に生き生きとした力がみなぎる頃。春本番のうららかさに誘われて自然と外に出掛けたくなりますが、古代の人々も自然の息吹を取り入れて英気を養っていたようです。

女の子の健やかな成長を願う桃の節句として今に伝わる「上巳じょうしの節句」は古代中国で陰暦三月の初め(=上)の巳の日、のちに三日に定められて行われていた春の禊ぎの風習です。今のこよみでは清明を中心に3月末から4月下旬にかかる頃にあたります。

もとは男女の区別なく水辺で禊ぎをする素朴なもので、この日春の訪れとともに芽生える青々とした草を踏み野遊びする「踏青とうせい」も穢れを払うためのものでした。今で言うところのピクニックですね。のちに流れる盃を手にするまでに詩歌を詠む雅な「曲水の宴」に発展し、日本では身をなでて穢れを移した人形ひとがた(のちの雛人形の原型)を流す風習と合わせて貴族の間に広まりました。

お供えに欠かせない桃の花も本来は3月半ばから4月が見頃。桃には厄を祓う力があるとされ、上巳には桃の花が流れる川の水を飲んで長寿を願う風習もありました。古代中国の不老長寿の女神、西王母せいおうぼは食べると不老不死になれるという桃の園をもっており、陰暦三月三日の誕生日には自ら「蟠桃会ばんとうえ」という宴をひらき、神仙にその桃を振る舞ったそう。「西遊記」にも孫悟空が大暴れする舞台の一つとして登場します。

ひなまつりの行事食のひとつ蛤はまぐりのお吸い物も、海での禊ぎから転じて潮(汐)干狩りが行われていた名残と思われます。月の満ち欠けをひとつきと数える陰暦で三日ということは新月から三日目、かならず大潮にあたり潮(汐)干狩り日和になります。古の風習を自然に尋ねて紐解くと五節句が陰暦で行われる必然性を感じます。

絵葉書のモチーフはひなまつりの調度品より貝合かいあわせ(貝覆)。蛤は同じ貝でなければぴたりと重ならないため一対の絵が描かれた貝を引き当てて遊んだほか、夫婦和合の象徴として姫君の嫁入り道具のひとつでもありました。現代なら「十人十色の幸せのかたちを寿ぐもの」として親しまれても良いかもしれませんね。

清明イラスト

季節のからだ

山の幸、海の幸でからだの澱を流す

暖かさでからだがゆるみ、ひらいていく春本番は冬の間溜め込んだ老廃物を排出していくタイミングです。

からだから何かを出す時は熱がかならず失われます。発汗は熱を冷ます生体のしくみ、排泄もお小水や便は熱をもった状態で出ていくからです。寒い季節は栄養を蓄え大事な熱を温存しようとからだは閉じるため、一緒に不要なものまで溜め込んでしまいやすくなるのです。

からだが冷えると胃腸のはたらきが緩慢になってお通じが鈍ることがありますが、見方を変えるといのちに不可欠な熱を守ろうとむやみにものを出さないようにしている反応とも言えます。

東洋医学では苦味や鹹味かんみ(ミネラル分を含む塩辛い味)には排泄を促すはたらきがあると考えます。実際、熱冷ましや解毒の作用のある漢方薬は苦いものが多く、ミネラルのひとつマグネシウムは現代医学でも下剤の成分として使われています。薬膳で苦味や鹹味の食材に寒涼性、からだを冷やすものが多い傾向があるのは、エネルギー源になるよりも排泄などで体内のバランスを取る作用が特徴となるためと考えられます。(注:薬膳の味は効能で分けるため実際の味とは必ずしも一致しません。)

そのため春は解毒の季節、苦味を取り入れてと言われますが、冷えやエネルギー不足を感じる方はまずは出すためのパワーをつけること。からだを冷やさず食事を抜かない、甘いものでごまかさない、暴飲暴食しない、睡眠時間を確保して体力を温存する。その上で赤い吹き出物など気になる炎症があるなら、春分を過ぎて十分に暖かくなり、からだの状態が安定しているときに少量使う程度をおすすめします。

この時期に摂りたい苦味や鹹味はまさしく春の野山や海の恵みにあります。

山の幸、こごみやわらび、たらの芽など旬の山菜は苦味の代表格。強いアクを程よく抜いて、心地よい苦味を味わうとからだがすっきりします。うどは苦味と辛味をあわせもち、少し温めるので冷えやしびれ、関節痛、頭の重たさがある方にもおすすめです。

海の幸、海藻や貝類は鹹味に属するもの。鹹味には溜まって固くなった不要なものを柔らかくして流れやすくする効果もあります。お通じのほか、抗動脈硬化作用のある成分や体液のバランスを取るカリウム、貝類は肝機能を強化し解毒作用を助ける成分も豊富で、血液や体液をきれいする助けになります。立夏を迎える頃には血液の循環が活発になるため、今から少しずつ取り入れておきたい味覚です。

冷えが気になる方は、生姜やネギなど辛味のあるものと合わせて、温かくして食べると冷やす作用を弱めることができますよ。

  • デトックスにはパワーが必要
  • 山の幸で冬の荷物を下ろす
  • 海の幸で初夏に向けてウォーミングアップ

五感をひろげる一句

摘草つみくさや雨後のきらめきざるに詰め

摘草は万葉集の歌にあるように行楽と行事を兼ねた日本の春の伝統的な行事。芹、蕗の薹、蓬など香りの強いものや、菫、土筆、蒲公英など可憐なものが摘む草の代表。摘み草につく雨粒が水晶のかけらのようにきらめき、その表面には輝く世界を映し、濡れる手にやさしくふれてくる。(季語:摘草)

作:志田円/「自鳴鐘」同人