霜降
そうこう菓銘 『梢の錦 -こずえのにしき-』
村雨製|栗入り羊羹
秋の日はつるべ落とし、あっという間に暮れるのを実感します。夜の時間が長くなるにつれ日に日に気温が下がり、かつては露が霜へと変わりはじめる頃でした。
霜は大気中の水蒸気が夜の間に冷えた土や植物などの表面で凍り付いたもの。現代は昔に比べて気温が高くなっているのでこの時期町中で霜を見かけることはありませんが、一足早く季節が進む山間部では目にすることができるかもしれません。
霜が降りる条件は気温5℃に対して地表温度が0℃のときと言われます。霜は降らずとも下からの冷え込みがすすむ頃。昼夜の寒暖差が樹木の冬支度、紅葉を促します。
気温が下がると落葉植物は根のはたらきが衰えて土の養分を十分に吸い上げられなくなります。また、日照量が減ると光合成によって葉でつくられる養分よりも葉を維持するために消費する方が多くなります。お荷物になる葉を落とすのは消費するエネルギーや栄養を最小限にして冬を越すための仕組みです。
目に鮮やかな紅葉はその準備段階として起こります。葉を落とす前に残っている栄養を幹の方に回収する過程で緑の色素は分解され、赤の色素が増えて、黄色の色素も目立つようになるのです。
木々の枝先の色が変わってきたら実りの秋もそろそろ終盤。秋祭りのように彩りが華やかになるにつれて冬へのカウントダウンがはじまります。
来年のために一年を早めに締めくくる
秋の味覚で栄養をつけては行楽やイベントにと一層精力的に活動する人が多い時期。まだ日中は過ごしやすいこともあって酷暑にみまわれる真夏よりもむしろ行動力に拍車がかかります。
今年もあと2か月となると今年中にと予定を詰め込んだりラストスパートをかけたりする方も多いですが、提案したいのはこの白秋の最後、霜降の時期をもって一年の締めくくりにすること。
花や果実はいつまでも成るままにしておくと次の年の出来や収穫量に影響するため、程よいところで剪定したり収穫を終えたりしますが、人間も同じです。
残り2か月はますます冷え込みがすすんでいく時期。ただでさえ寒さから身を守るためにエネルギーの消費量が多くなる時期に、さらにちからを振り絞ると消耗が激しくなる一方です。駆け込み追い込みで疲弊した状態で年を納め真新しい一年のはじまりを迎えるのは少しもったいないと思うのです。
せっかくなら、新しい年は十分な気力体力をよりどころに何か目標や希望を大きく描きたいもの。
そのために、まだ余力のある10月のうちに今年の目標の目処をつけて、残りはゆるやかに過ごすのがおすすめです。今年の経験を実りとしてゆっくり味わったり、ご自身や一緒にがんばってきた人たちを労ったり、使った道具やからだのメンテナンスをしたり、今年の収穫から来年蒔いて大きく育てたい種を選んだり。
人間のからだやこころはずっとがんばり続けるようにはできていません。緩急をつけるなら、冬はゆるめどき。十分にゆるめることで次へのちからが蓄えられます。
仕事や学業、家庭の都合でどうしても冬が勝負時の方は、からだの回復に必要な時間を優先し、楽しいスケジュールもゆるめに組んでみてください。後に疲れが残らない程度が一番こころの栄養になります。
- 一年の目標に目処をつけて締めくくりに入る
- 今年の実りを味わい、来年の種を選ぶ時期へ
- 楽しいスケジュールもゆるめに組む
渡り鳥天地のうたに道をきく
秋もたけなわとなると、北方から多くの小鳥が渡ってくる。鳥たちは大きな山や川を目当てにわたってくるようで、その上空が渡り鳥の道となっている。天地のうたをきき、それぞれの渡りの地に安全にたどり着いて欲しい。(季語:渡り鳥)
作:志田円/「自鳴鐘」同人