処暑
しょしょ菓銘 『虫の声 -むしのこえ-』
葛製|白餡・小豆こし餡・大徳寺納豆入り
お盆を過ぎると夕暮れ時に吹く風にわずかに涼が混じる、暑さ止む頃。朝から晩まで耳をつん裂くように大合唱をしていた蝉の声もどこへやら、木の間から哀愁漂うヒグラシの声が際立って聞こえると夏の終わりを感じます。
夏の疲れが漂う夜のはじまりにやさしい風を求めて窓を開ければ小さな虫たちの声も耳に届いてきます。姿を見せぬ声の主を探して草むらを見やると楚々とした秋の草花が揺れていて、自然と心が安まります。
秋の七草は奈良時代末期に編纂された日本最古の和歌集「万葉集」に収められている山上憶良の和歌に由来すると言われます。
秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 七種の花
萩の花 尾花葛花 なでしこが花 をみなへし また藤袴 朝顔が花
尾花はススキの別名、ここでの朝顔は桔梗ききょうまたは木槿むくげを指すといわれ、今では秋の七草には桔梗が定番とされています。
秋の七草といっても実際には撫子なでしこや桔梗、萩、女郎花おみなえしなどは6,7月頃から咲いています。真夏の花は大輪で鮮やかなものが多く、その盛りを過ぎてようやく愛らしい小花をつける七草に目が留まるのでしょう。8月に入ると葛や藤袴も咲き始め、9月にススキの穂がひらいていよいよ秋といった景色が広がります。
処暑のお菓子に選んだのは夏の名残の葛饅頭。生薬の葛根はからだの表面の熱を和らげるとされています。草陰の虫に見立てて潜ませたのは塩味と独特な風味をもつ大徳寺納豆。暑さ疲れのからだに滋味を届けます。
ぐっすり眠って夏の疲れを持ち越さない
毎年いのちを脅かすほどの酷暑が長く続くようになりました。体力気力の回復に欠かせない睡眠ですが、寝付きにくい、朝までぐっすり眠れないなど夏の終わりの不眠に悩む方もいらっしゃるかもしれません。
主な原因のひとつはまさしく気温の高さ。私たちのからだは眠りにつくとき体温が下がります。からだ全体の代謝を落とした省エネモードに入り、寝ている間は脳の温度も下がった状態を保ちます。室温や湿度が高い環境ではからだの熱が発散しにくく寝入るのに時間がかかったり、夜中に目覚めやすくなったりもします。
寝付きを良くするためには手のひら足の裏からの放熱を助けること。この部分は寝付くときに血行が良くなることでひらく熱の出口です。冷房でお肌が冷えていたり、分厚い靴下を履いていたりするとその出口が塞がれている状態になり、寝入るときの体温変化が起こりにくくなります。
就寝1時間前には上がれるようにぬるめのお風呂に入ったり足湯をしたりして、一旦温めることで血行促進し熱が逃げやすい状況をつくると寝付きやすくなります。熱いお風呂や長湯が好きな方もいますが、お風呂でからだに熱がこもらせると体温が下がるのに時間がかかります。ぬるめ設定にすると日中の暑さも引きやすく、案外スッキリします。
寝ている間は室温調節ができず、寒かったり暑かったりして途中で目が覚めてしまうこともありますね。暑い時期限定ですが、室温は少し高めに設定して氷枕を使うのがおすすめです。タオルをぐるぐる巻きにして触れるとかすかにひんやりする程度にして後頭部だけ乗せてください。暑さで目が覚めてしまう方ならこれで朝までぐっすりです。
スマホや仕事など、寝る直前まで五感や頭を刺激していると脳の温度が下がりにくくなります。ほどほどで切り上げて翌日すっきりした頭で再起動、きっとその方がはかどりますよ。
- 熱の出口をひらいて寝付き改善
- 寝苦しさにはほんのりひんやりの氷枕を
- 睡眠は頭とからだのリフレッシュタイム
わらべ吹く笛が誘えり夕蜻蛉
もともと河川や湖沼の豊かな日本の風土には蜻蛉が多く生息し、わが国の古称「あきつしま」は蜻蛉の古名「あきつ」にちなむ。夕焼けが赤く燃えるなか子供の吹く笛が蜻蛉の群れのなかをゆっくりと通ってゆく。(季語:夕蜻蛉)
作:志田円/「自鳴鐘」同人