菓葉暦

立秋

りっしゅう
8/7〜22頃
立秋

和菓子をどうぞ

菓銘 『朝がほ -あさがほ-』
薯蕷練切製|小豆こし餡

連日高止まりしている最高気温に目がくらむ頃。秋とは名ばかりで夏真っ盛りと感じられますが、それこそ夏という季節の峠を越えて次の季節へとうつろいはじめたサインです。

朝顔も夏の風物詩のようで秋の訪れを告げるものの一つ。梅雨明けの頃から咲きはじめ、夏休みには観察日記をつけた方も多いと思いますが、初秋を表す季語になっています。

朝顔が花ひらくのは日没から約10時間後。夏至を越すと徐々に夜が長くなっていくので開花するタイミングも変わってきます。ゆっくり日が沈み早々と夜が明ける7月は明るくなってから。8月に入り、日が暮れるのが少し早くなったなと感じる頃にはちょうど明け方に。夕暮れが刻々と早くなり少し早起きをしたら日の出が見られる9月は夜明け前の暗い時刻からひっそりと咲くのだそう。

熱帯夜が続く現代では想像しがたいですが、100年前、夏の最低気温は今よりも3℃前後低くかったといわれています。当時ならこの時期には明け方、朝露をかすかに宿す藍や紺の花にひとときの涼と秋の気配が立つのを感じたのではないでしょうか。

今では花が観賞される朝顔ですが、奈良〜平安時代に中国から渡ってきた当初はタネを薬にする目的で用いられていました。大昔は牛を牽引してタネと引き換えたため生薬名は「牽牛子けんごし」、ゆえに花は別名「牽牛花けんぎゅうか」と呼ばれます。一方、「牽牛星けんぎゅうせい」と言えば彦星のこと。これにちなんで東京・入谷の朝顔市は新暦の七夕前後に開催されています。

陰暦七月七日の七夕しちせきの節句はちょうど立秋から処暑の頃にあたります。梅雨の最中に迎える新暦とは異なり、晴れわたる夜空を見上げると天の川、織姫と彦星の逢瀬をみられるかもしれませんね。

立秋イラスト

季節のからだ

暑さ対策はめぐらせるから蓄えるへ

大暑から立秋へ。暑さが長引くこの時期は夏バテ対策も少しずつ変えていくタイミングです。

大暑の頃までは水を大量に循環させて熱を冷ます、取りこんだ水分を汗やお小水に変えてどんどん過剰な熱を排出するのが体温調節の要。それを効率よく助けてくれるのが水分たっぷりで利尿作用もある夏野菜でした。(詳しくは「朱夏」編にて)

立秋を過ぎると今度は水分を蓄えることも重要になってきます。さらさらと出て行きやすい水分に偏っていると補充が間に合わなければ熱がこもりやすく、秋になると乾燥のダメージも表れやすくなります。また、暑くなればなるほど空気を冷やす冷房の電力消費量が多くなるように、発汗や排泄で放熱するためにたくさんの水分を代謝しているとエネルギーを消耗し、夏バテにもつながります。

このからだに蓄えておきたい水分とエネルギーの両方を補充するためにぴったりなのが秋の味覚です。その特徴は炭水化物(糖質)が豊富なこと。主要なエネルギー源である糖質は不足すると疲れやすく、特に脳は炭水化物に含まれるブドウ糖を唯一のエネルギー源とするため集中力が欠けたりします。

また、糖質は保水力にすぐれているため、水分を体内に留めておく作用もあります。からだの適度な水分は乾燥のダメージを予防するだけでなく熱を受けとめる器。夏は暑さを和らげ、寒い時期には熱を蓄えて温かさを保ちます。水分は本質的に冷たいものなので、潤いを補うなら寒くなってからよりもまだ暑さの残るうちに手を打つ方がからだを冷やさずにすみます。

夏野菜中心で糖質少なめに過ごしていた方はそろそろ初秋の味覚をどうぞ。お盆に先駆けて出回るぶどう、最近は種類が豊富なかぼちゃ、さつまいもなどの芋類、栗、新米など、いずれも自然な甘みでからだが回復しやすくなりますよ。

一方、冷たくて甘いスイーツや甘辛味のおかず 、市販の合わせ調味料など、ふだんから糖質の摂取が多い方はご注意を。めぐりにくい水分が溜まってむくみになり、老廃物の排泄も滞っているかもしれません。気温が高く汗やお小水で外に出す作用がはたらきやすいうちにさらさらと流してしまいましょう。果物含めて甘いものは控えめに、うす味を心掛けてみてください。糖を代謝するために不可欠なビタミンB1を含む肉類やナッツ、全粒穀物も一緒にどうぞ。

  • 秋の味覚で水分とエネルギーを確保
  • 利尿作用の強い夏野菜やスイカは少しずつ控えめに
  • 甘い物好きは今のうちに出せる食生活にシフト

五感をひろげる一句

朝顔の花の薄きに水こぼ

晩夏から秋にかけて柔らかな緑の中に漏斗状の花を咲かせる朝顔。藍色、紅紫、淡紅、白色、絞りなど色彩が多く、大輪で美しい。水を遣ると薄い花びらに玉のようなひかりの粒が宿り零れ落ちてゆく。(季語:朝顔)

作:志田円/「自鳴鐘」同人