寒露
かんろ菓銘 『着せ綿 -きせわた-』
薯蕷練切製|栗餡
降りる露が冷たさを含み、昼夜の寒暖差が大きくなる頃。山間部や北では寒気に備えて早々と冬支度を始めます。新米の便りが届く頃、刈り取られた田んぼでは落ちている籾をついばむ雀たちの姿が見られます。
寒露の前後から霜降にかけて迎えるのが陰暦九月九日、「重陽ちょうよう の節句」です。「重陽」とは古代中国に生まれた陰陽思想において奇数は陽の数、その最大の数である「九」が重なる日であることを意味します。エネルギーが極まる吉日とも、それを境に運気が変調するため邪を祓い無病息災を願う日とも考えられています。
五節句は基本的に同一の奇数が重なる日にあたります(人日のみ例外で陰暦一月七日)。他の四つは七草粥、雛祭り、こどもの日、七夕と今でも親しまれていますが、五節句の最後を飾る重陽のみ、今ではあまりなじみがありません。
重陽の別名は「菊の節句」。古来、中国では菊は百花が散った後も霜に耐えて咲く花として生命力や不老長寿の象徴とされ、日本でも仏花として尊ばれるのは邪気や悪疫を祓う呪力をもつとされるためだそう。いのちの原動力、太陽が陰っていく時期に、生命力の象徴とされる菊を用いて災いを遠ざけ長寿を願うのですね。
菊のもつ霊力にあやかる習わしは菊酒や観菊などいくつかあり、「着せ綿」もそのひとつ。重陽前日に菊の花に綿をかぶせて花弁に宿る露と芳香を含ませ、当日の朝その綿でからだや顔を拭い、不老長寿や美容を願うというものです。今回のお菓子はその風習を模したもので、中には重陽のお供えにされる栗を餡にして包んでいます。
温かいお肌で潤いもからだも守る
朝晩は肌寒さを感じる頃ですが、暖かい日中に合わせた格好のままガマンをしていませんか?そのガマン、お肌の乾燥やバリア機能の低下にもつながります。
寒くなるとお肌がカサカサしやすくなる原因は大気の乾燥だけでなく、皮膚の血行不良も一因です。血液はお肌に栄養と潤いを同時に与える美容液。十分に行き届いているときは色艶良くハリもありますが、寒くなると体温を逃がさないようにするため皮膚の血管は細く収縮して血流量が低下します。すると新陳代謝が鈍って乾燥や病原菌に無防備なお肌になっていきます。
皮膚の血行が鈍るのは寒さから身を守ろうとする正常な反応です。その結果としてお肌の栄養状態がわるくなるので、潤いやバリア機能を保つにはできるだけお肌に寒さストレスを与えない対策が必要です。
まずはお肌を冷気にさらさないようになるべく衣服で覆って温かい空気の層をまといましょう。また、この時期は冷たい雨や湿気、運動した後の汗にもご注意を。濡れたままにしているとその水分がお肌を冷やし、ますます血行がわるくなります。日中は乾いたタオルで拭いたり着替えたりして、帰宅したら早めにお風呂へ。湯船に浸かるとその日の冷えの影響が和らぎます。
注意したいのは熱めのお風呂や長風呂です。皮膚の保湿成分セラミドが流れてしまう上、あがった後は水分も蒸発しやすくなり乾燥が進みます。セラミドが存在する角質層は弱酸性の皮脂膜や天然保湿因子、抗菌物質などを含み、保湿だけでなく病原菌などの増殖や侵入を阻む自然免疫のはたらきも担っています。あかすりのようにお肌をゴシゴシこするとそうしたバリアが失われてしまうのでやさしく洗いましょう。
お風呂上がりにはお肌が潤っている間にクリームを塗り、素早く長袖や靴下を身につけて。お肌から蒸発する水分や熱を油脂膜や空気の層で受けとめつつ、ほどよく血行を保ちます。髪をしっかり乾かすのもお忘れなく。
お肌を潤す食べものとしてナッツやオイルなど植物性油脂を豊富に含むものも適度に取り入れるとこれからの季節は効果的。腸の潤い不足で鈍りやすいお通じもラクになりますよ。
- 寒さのガマンは健康と美容の大敵
- 冷たい空気や水分から徹底的にお肌を守る
- 油脂分の補充で保湿力UP
朝粥や椀のぬくもり秋思かな
秋になると草木も凋落の色を見せ、木立のなかを行くと透き通った風が人恋しげに身にまつわる。大気は快く冷え、夜の月光は青くひかり、美しい虫の音につつまれる。そうした頃、人は故知らぬ物悲しさにつつまれるのが秋思である。草が露に濡れる朝、一椀の粥のぬくもりにふと秋の物思いを感じる。(季語:秋思)
作:志田円/「自鳴鐘」同人